月花は憂う

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 それは残念だな、と大袈裟に肩を竦め――ふいに槙田は俺に瞳を凝らす。  たじろぐのをよそに視線を這わせられた。恐らくは、靴の先から首元まで。 「……でも……、そうですね。せっかく来たんだし」  独り言のように鈴の音が鳴り。  ようやく、俺から目を離した。  服を選ぶという些細な仕草まで洗練されて見えるのが腹立たしいが――ともあれ、これで目的通り。  目を逸らされた刹那、胸の奥らへんがピリ、と鋭く痛んだ気がしたけど――構わず、自分には絶対に似合わない衣服の群れへ向き直った。  偵察開始だ、と気合いを入れながら。  結局その店にいたのは数分で、選び出してすぐに槙田は手を止めた。  どうしたのか窺うと同時に目があって。背筋に電流が走ったけど、幸い奴は俺の動揺に気づかなかったらしい。 「違うとこ見たいんですが、構いませんか?」 「え、……いい、けど」 「なんなら別行動しても良いんですけど」  別行動、したら目的が果たせなくなる。  だがお前と一緒が良いだなんて、口が裂けても言えるわけがなく。  どう返そうか迷っていると、槙田はする、と持ち上げた手で、何気なく右耳に横髪をかけた。  それがまたやけに官能的な仕草で、どく、と鼓動が高鳴るうちに、 「でもその場合は携帯握りしめて、すぐに俺に掛けられるようにしといてもらわないと」 「は?」 「俺がいない隙に拐われたら困るでしょ」  身長173センチの20歳の男を、一体誰が連れていくと言うのか。  コイツの発想は理解不能だと改めて認識しなおし、さっさと店を出るように促した。   次に向かったのは、色彩こそ落ち着いているものの、ポップなデザインが揃う店。  奴の雰囲気には見合わない気がしたのだが、商品を吟味するさまは先程より明らかに真剣で。 ――まあ、似合うのと着たい服って別だったりするし。  近場にあったパーカーを手に取る。  悔しいこと極まりないが、俺は端から見れば年齢よりすこし幼めに見えるらしい。  だから俺に限って言えば、高校生も着るようなこの店の商品の方が断然似合うんだろうけど―― ――……いまは、んなことどうでもいい。  槙田が違う場所へ移るのを見届けたあとで、奴が見ていた位置へ偶然を装って移動する。  そこに並ぶのは冬を意識したインナー。  尚早な気がするそれらを眺めつつ、やっぱり少しイメージ違うな、と思った。
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