99人が本棚に入れています
本棚に追加
動線を追うごとに違和感は増した。
だからこそ――勝手なイメージを訂正し、新しくインプットし直すため、ストーカー紛いの行為を続けた。
常に一定以上の距離を保ち、尾行した。店の選択も槙田に一任して、俺はそのあとに従順に付いていった。
猫の瞳が時折こちらを窺ったけど、俺は気付かない振りをした。
目が合ってしまったら咄嗟に視線を逸らしたり、奴にならって首をかしげたりした。
そうして、5店目に入ったとき。
迷彩柄のズボンに意識をとられているうちに、槙田の姿が消えた。
一瞬思考が停止して――あれ、あれ、と辺りを見回して、事態を認めてからまた真っ白になって。
慌てて飛び出して、すぐに見つけた。
店内からは死角でも、ほんの数メートルしか離れていない先に 。
芝居じみた仕草で、新人役者は俺に向かって両手を広げる。
通行人が奴に向けるのは、蔑視ではなく惚けたような視線。
それだけ槙田は綺麗だった。
人を惑わす悪魔さながらに。
瞬きの間に躊躇いを捨てて、肩を怒らせて歩み寄る。
「てめえ、なんで急にいなくなんだよ……っ」
と。
「飼い主を見失って戸惑いましたか?」
笑みを象る唇が紡いだ言葉に、俺は凍りついたように歩みを止めた。
「あんたが子犬みたいに一生懸命俺のあとを追いかけてるのが可愛かったから……いなくなったらどんな顔するのかな、と思って、つい」
顔面が、発火した。
「……~~っ」
滑稽だ。気付かれていた。
気付かれて、その上で泳がされていた。繊細に見えて、震え上がるほどの膂力を秘めたてのひらの上で。
いつでも握り潰し、凍えさせることができた。
それをいま実行した。と言うだけ。
「どうしました。顔が林檎みたいになってますよ?」
嘲笑が鼓膜をくすぐる。辺りのざわめきも、きっと自分を罵るもの。
身体が震えて、拳を握りこもうとしても力が入らなくて。
――はずかしい。
――どうしよう、
「さくら先輩?」
背を向けた。勢いに浮き上がったバッグに尻を叩かれ、大股で――逃げ出した。
「……先輩、どうしたんです、」
どうしたのかなんて分からない。
どうかしてるんだと思う。
「こんなの別に大したことじゃ、……ああ、俺が傷つけた側か、」
――ごめん、
足を速める。
「すみません、だから止まって……、先輩!」
――こそこそして、狡くて、
――ごめんなさい。
最初のコメントを投稿しよう!