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もう所有物じゃないのだから、槙田の言葉に従う必要は無い。頭では分かっている。
問題は身体の方だ。2週間奴隷同然に扱われた後遺症か、この四肢は奴の命令に、やけに機敏に反応してしまう。
それだけじゃない。氷のように冷たい手に捕らわれたって、俺は未だに蹴ったり殴ったりといった抵抗が出来ない。
枕で叩くのさえ躊躇するくらいで、唯一出来るのが、頭突き。
槙田に従え。
槙田に攻撃してはならない。
特に心臓が、そう訴える。
「……何だよ」
「何って、忘れ物ですよ」
慌ててポケットに手を突っ込む。指先はちゃんと携帯に触れた。家の鍵は鞄から取り出していないし、他のものは置いていこうが死活問題にはならない。
どうせまた呼び出されるのだから、今日はこのまま去ってしまえば良い。
だって俺は怒っていて、槙田への嫌悪を再確認したところでーー
頭では思うのに、もう、見せ付けるための渋面を作っている。
跳ね返すような勢いで振り返る。と。
差し出されていた「忘れ物」は、まるで見覚えのないものだった。
2センチほどの厚みのある、手のひら大をした正方形の箱。それがシンプルな赤い包装紙と、銀色のリボンでラッピングされている。
瞬きを三度繰り返すうちに、不愉快の色は抜け落ちた。
そろりと視線を持ち上げると、
「忘れ物ってのは嘘」
猫に似たアーモンド型の目は、悪戯っぽく細められている。
「今日のお礼です。先輩にプレゼント」
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