最愛の娘

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「通報できるはずがないだろう。娘を殺したのは、私の妻のだから」 「え!娘さんを殺したのが、そ、そのお客様の奥様!」  思わぬ告白にケイは動揺を隠しきれず、声が裏返ってしまう。 「妻は私が娘を愛していることを知ってしまい、娘の腕を肩から引きちぎると腕を折り、足も腰から・・・」  聞いているだけで、気分が悪くなる話だ。まさか、依頼者の背景にそんな残酷なことがあったなど、誰が想像できるだろうか。 「誤解はしないでください。私は娘を愛しているが、それは親子としての愛情だ。それが、妻には分からなかったらしい。誤解が誤解を招いて、娘を殺させてしまった。手を下したのは妻だが、そのキッカケをつくってしまったのは、他でもないこの私だ。大いに反省している」  ケイは黙って男性の話を聞くしかなかった。男性は本当のことを言っているのか。それとも、冗談なのか。真実は話を聞くだけのケイは分からない。本当のことだとしたら、男性の行動、家族関係は常軌を逸している。殺人犯の妻と共に娘の死を隠蔽して今まで通り生活をし、その一方で娘に似せた人形を作らせ、自宅に持って帰ろうとしている。  ケイは恐怖で紅茶の味など分からなくなっていた。  男性は綺麗に包装された娘の人形を車に積むと家へと帰っていった。 「あなた!また、そんなモノを!」  人形を抱え男性が家に帰るなり、彼の妻の怒声が響いた。 「うるさい!この子は、私の娘なんだ!余計なことをするな!」 「そうはいきません。私達の間に子供がいないからといって、人形を本物の娘のように可愛がるなんて、近所の人達から変な目で見られているのが分からないのですか!」  妻はそう言うと、男性の意見には一切、耳を貸すことなく人形を取り上げた。そして、彼が見ている目の前で最愛の娘をバラバラに壊し始めた。
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