最愛の娘

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 ケイは名の知れた人形師である。人形師とは人形を制作する仕事に携わる職に就く者を指す言葉だ。ケイは数ある人形師の中でも上位に入る程の腕前の持ち主である。  そんなケイの元に、ある日、男性の客が一人やってきた。 「実はあなたの腕を見込んで、ある人形を作っていただきたいのです」  四十代ぐらいの男性はそう言って、懐から写真を一枚、取りだしケイに見せた。 「この子は」  ケイは写っていた少女を見るなり思わず聞いてしまった。人形師のケイだからこそ分かる。美しい肌に整った顔、姿。これは素晴らしい題材であると直感した。  ケイに聞かれ、男性は瞼を閉じ目頭を押さえた。そして、小さな嗚咽と共に語る。 「私の・・・娘です。最愛の・・・」 「娘さんですか」  ケイは男性の様子を見て悟った。この少女は、もうこの世にはいないのだと。写真の中だけの存在であると。 「この写真に写っている娘さんの人形を作ればいいのですか?」 「はい。出来れば、実寸大で、写真に近い状態で。私の娘に近ければ、近い程、いいのです」 「難しい依頼ですね」  参考となる写真はあるが、少女とそっくり同じ人形を作るとなると、骨が折れそうだった。一口に人間といっても外見からでは分からない。骨格や筋肉によって、大きく印象は変わってしまう。 「写真が一枚だけでは足りないと仰るのでしたら、こちらも」  男性は他の写真も鞄から取りだしてケイに渡した。真正面から撮影した写真だけでなく、顔写真、横、後ろと様々な角度から撮影した写真だ。 「こんなに、沢山の写真を、いつ」  ケイはあまりの写真の多さに男性に聞こうとしたが、すぐに口を紡いだ。写真の少女はいないのだ。父親が娘と別れる間際に、少しでもその姿を残そうと撮影していても何ら不思議ではない。それに、写真をよくみれば、どれからも生気は感じられなかった。 「これだけ、沢山の写真があれば大丈夫です。他の仕事もありますので、一ヶ月後ぐらいに、お越し下さい。その頃には出来ています」 「お願いします。最愛の娘を作り上げてください」  ケは男性と握手を交わし別れると、早速、人形の作成に掛かるのだった。
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