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一ヶ月後、男性は約束通りケイの元を訪れた。
「依頼した人形は出来たでしょうか?」
「ええ。こちらになります」
ケイは大きな箱に収まっている少女の人形を男性に見せた。人形を見た瞬間、男性は感情が高ぶって目から大粒の涙を流した。
「おお・・・。メイ、メイ・・・」
男性は縋(すが)るようにして人形を抱きしめた。
「素晴らしいできだ。本当にメイが、この世に蘇ったかのようだ」
「喜んでいただいて良かったです」
ケイもここまで喜んでくれる客を見ると嬉しく思う。だが、その反面、不安に思うことがある。いくら、男性の娘に似せたとはいえ、所詮は人の形をしただけのモノだ。本物ではない。よく、人形には魂が宿るというが、ケイ自身はまだ、その領域に達していないと思っていた。それなのに、我が子が蘇ったと歓喜する男性を見ていると、チクリと胸が痛くなる。
「これで、良かったのですか?娘さん」
「ああ・・・。十分だ」
「ならいいのですが」
男性はしばらくの間、ケイが作った娘似の人形を抱きしめていた。その間に、ケイは台所で紅茶をカップに注いで持ってきた。
「ありがとう。本当にありがとう」
落ち着いた男性は紅茶を飲み、ケイにもう一度、礼を言った。
「娘さんのこと、よっぽど、愛していたのですね」
「オーバーな言い方かもしれないが、娘は私の人生、そのものだった。それが、あんな最期を迎えるなんて」
「あんな最期?」
「娘は殺されたんだ」
男性の言葉にケイは驚き、カップを落としそうになった。
「殺されたですって?」
「そうだ。無残な最期だったよ。肢体をバラバラにされ、ゴミクズのように捨てられた。私の目の前でだ。私も何もしてやれなかった。情けない」
ケイは頭で想像しまう。美しい少女がどのようにして最期を迎えたのか。その残酷な光景を。何かを比喩して男性は言っているのか。いや、それにしては生々しい話である。というよりも、これは事件である。
「そのことは、当然、警察に・・・」
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