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私が鳥居君と「その行事」に参加したのは、ほんの偶然だった。
5月の連休明け。
最初の土曜の、夜9時過ぎ。
街灯と月明かりだけの、薄暗い校舎の中。
そこを2人で歩いていた。
懐中電灯すら持たず。
彼が先導して、少し後を私がついて行く、といった形。
「も、やだ~~~~~っ!
窓から逃げていい?」
「駄目!警報機鳴っちゃうでしょ?」
もう!
グイッと、腕を引っ張る。
鳥居君は華奢だ。
我が校の制服──紺色ブレザーに着られている、といった感じ。
背は流石に、私よりもチョット高いけど。
腕なんて細くて、枝か棒みたいで。
だから私は案外強いその腕力に驚いて、目を丸くする。
「わっ、わっ、わーーーっ!
いきなり、何すんの?」
「いや、前に来た方がいいのかな?
……と、思って」
「そんなことしたら、余計怖いでしょ!
何かあったら、どうするの?
護ってくれる?
責任とってくれる?」
「わかったよ。
じゃ、後ろ行って」
諦めて、腰から左手を差し出した。
私はその手を繋ぎ、もう一方の手で彼の裾を掴んで、渋々ついて行く。
鳥居君、怖くないのかなぁ?
怖がりな私はソロッと様子を窺った。
頬が赤い。
でも気のせいかもしれなかった──だって、ここは夜の中。
窓から降り注ぐ東京の灯りは、校舎を不思議色に染めてしまうから。
私は勇気を出して、顔を上げた。
薄く色づいた闇の中。
廊下の奥に、夜を濃縮したような濃い色の空間が、とぐろを巻いて続いている────…。
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