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その理由…
会長がまだ社長で、私が秘書をしていた頃。
私は社内で知らない人がいないというくらいに、会長との仲を噂されたのだ。
『会長の愛人』
『歳の離れた会長の恋人』
私自身は噂されてもなんともなかった。
会長のことを心から尊敬していたし、自分が会長に、周りに誠実であれば何でもないと思っていたから。
その噂が社外にも伝わって、会長と一緒にいる時に嫌味を言われたこともある。
『噂どおりですね…それは遠野さんも元気でいられるはずだ』
などと。
けれど、会長はいつだって、誰にだって毅然(ｷｾﾞﾝ)とした態度を崩さなかった。時にはユーモアを加えて、さらに上手(ｳﾜﾃ)にまわるのだ。
けれど、それは会長の経験が成せるもの。
それに、私に対するいつも変わらない紳士的な態度があったから。
だから、ちゃんと見てくれている人ならいずれ気付く。
『この二人には何もない』
そして、また改めて実感するはずだ。
変わらない優しさ、堂々とした振る舞い、滲み出る威厳。
この人は会社のトップにふさわしいと。
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