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「望愛ったら…驚き過ぎ」
「…ご、ごめん。だって…そんな話、初めて聞いたし…」
本当に、この話は初めて聞いた。
初めてなのに…
どうしてこのタイミング?
「紅茶、冷めちゃうわよ。ほら、ケーキも食べましょ?」
母はふわふわのスポンジにフォークを伸ばした。
「美味しそうですね。いただきます」
焦る私をよそに、渉さんは少しもそんな素振りを見せない。
私は疑問に思いながらも久しぶりのお気に入り店のケーキを味わうことにした。
鳳来亭。もう30年も続く、洋菓子店の老舗だ。母は私が帰省するときには、よくここのケーキを用意してくれている。
「美味しーーー」
ふわふわのスポンジに甘すぎない生クリーム。スポンジの間にはゴロゴロした大きめのイチゴの果肉。何度食べても食べ飽きない、私の大好きなケーキ。
焦りも不安も一瞬、どこかに吹き飛んでしまう。
「…本当に…美味しいですね」
渉さんも驚きの混ざった表情で言う。
そう…
そしてこの味は…
「父さんも…大好きだったわ」
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