2322人が本棚に入れています
本棚に追加
このことは、ケーキを食べる度に母に聞かされていたことだ。
回数は少ないけれど…
私と母と父、三人で一緒に食べたこともあるらしい。
母の一言で、話題がまた父に戻った。
「…今でもわからないわ。どうして父さんがあんなにも同棲をしたかったのか」
母はケーキを食べながら、父のことを思い出しているようだった。
フォークにすくった生クリームののったスポンジをぼんやりと見つめている。
「…聞かなかったの?」
私が言うと、母は小さく息を漏らした。
「聞いたわよ…でも教えてくれなかったの」
「そっか…」
「母さんの両親も『結婚をしてから一緒に暮らせばいい』って、別に父さんのことを認めてなかったわけじゃないの。でも父さんは『すぐに一緒に』の一点張り。母さん、両親との関係が悪くならないかとヒヤヒヤしたわ」
「…ふーん。何でだろうね?」
「わからないわ。…もう、聞けないんだし」
母はそう言って見つめていたケーキの一かけらを口に放り込んだ。
すると、渉さんが言った。
「僕には…わかりますよ」
最初のコメントを投稿しよう!