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彼の言葉に返事を出来ずにいるわずかな時間、
エレベーターの扉はその口を閉じようと試みるけれど、
彼はそれを許さない。
私の返事を少しおどけた笑顔で待っている。
わけがわからない私に当然、肯定の返事などない。
「…すみません。今日は友達と約束していますから」
私の言葉に彼は演劇のワンシーンのようにわざとらしくがっかりする。
「なーんだ。せっかくチャンスだと思ったのに。まあいいや。次はいい返事ちょうだいね」
…彼にいい返事は
今後も出来そうにない。
私が無言でいると、彼はエレベータの扉から手を離した。
「またね、桐谷望愛さん」
「…お疲れさまでした」
私が頭を下げて、顔を上げると
エレベーターの扉が閉まるところだった。
扉の隙間からは
彼の白い歯を見せた不気味な笑顔が覗いていた。
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