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9時少し前。
渉さんがJ社に出る時間だ。
私は社長室に渉さんを迎えに行く。
ノックをして室内に入ると、渉さんは出掛ける準備を始めていた。
「時間だな」
渉さんは私が声を掛ける前に私に言った。
「はい」
そして続ける。
「桐谷。今日中にこの資料をまとめておけ。少し厄介だが、前に菊森に作ってもらったことがあるから教わりながらやれ。お前ももっと出来ることを増やしていくぞ。俺の秘書だ。出来ることが多い方がいい」
「はい。わかりました」
それからエレベーターまで送り、一緒に乗り込もうとすると、渉さんが私を止める。
「時間がもったいない。さっきの資料、思ってるより手強いぞ。早く掛かれ」
「はい。承知しました。行ってらっしゃいませ」
エレベーターの扉が閉まる。
私は動き出したエレベーターにもう一度頭を下げた。
渉さんは二人きりの時に私を『桐谷』と呼んだ。
うれしかった。
私の大好きな
頼もしい遠野社長だった。
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