オバケ-2

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9時少し前。 渉さんがJ社に出る時間だ。 私は社長室に渉さんを迎えに行く。 ノックをして室内に入ると、渉さんは出掛ける準備を始めていた。 「時間だな」 渉さんは私が声を掛ける前に私に言った。 「はい」 そして続ける。 「桐谷。今日中にこの資料をまとめておけ。少し厄介だが、前に菊森に作ってもらったことがあるから教わりながらやれ。お前ももっと出来ることを増やしていくぞ。俺の秘書だ。出来ることが多い方がいい」 「はい。わかりました」 それからエレベーターまで送り、一緒に乗り込もうとすると、渉さんが私を止める。 「時間がもったいない。さっきの資料、思ってるより手強いぞ。早く掛かれ」 「はい。承知しました。行ってらっしゃいませ」 エレベーターの扉が閉まる。 私は動き出したエレベーターにもう一度頭を下げた。 渉さんは二人きりの時に私を『桐谷』と呼んだ。 うれしかった。 私の大好きな 頼もしい遠野社長だった。
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