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「え、あ、あの」
私は慌てて体勢を整えて、小さく服装を直しながら何とか取り繕(ツクロ)った。
「あの…どうされましたか?」
私の問いに彼はニコリと微笑み、書類を持った手でノックのフリをした。
「失礼しまーす」
彼が室内に足を踏み入れながら私に言う。
「今日の社長出席予定の会議。俺、企画部だから。社長の仰(オオ)せのとおりに、資料持って来ました」
彼は手にしていた資料を私に差し出した。
「あ、すみません。ありがとうございます」
私がその資料に手を伸ばして受け取ろうとすると、彼はその手を引っ込めた。
…え?
手を差し出したまま彼を見上げて固まる私を、彼は笑った。
「アハハ。かわいい」
「…え?」
今度は声に出てしまった。
すると、資料を掲(カカ)げてそれをひらひらと揺らしながら彼は眉を上げて言う。
「これ欲しかったら、一回デートしてくれない?」
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