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「え?」
別に、『え?』しか言えないわけじゃない。
だけど、さっきからそれしか言葉が出てこない。
混乱しながら、対処に困った私はそれを聞かなかったことにする。
「…資料、お預かりしますね。ありがとうございます」
私はもう一度手を伸ばした。
彼はその手を無視して秘書室をうろうろと歩き回り始めた。
「…遠野社長。やり手で男前で少々強引。…もしかして…社長とデキてたりするの?」
そう言いながら彼は足を止めて私のパソコン画面を覗きこんだ。
私は慌てて彼の前に立って視界を遮った。
「すみませんが、機密文書です。あの、資料はいただきますのでこれで…」
「…機密…ね。この最上階って、秘密がいっぱいありそうだよね?…機密文書に…社長と秘書の怪しい関係…」
…この人…ヤダ。
「…怪しくなんてありません。資料、お願いします。私も午後の予定がありますのでお昼に出ませんと」
私は一度下ろした手を、今度は強気で彼の前に差し出す。
すると、彼は得意の笑みをつくって片方の手で私の手を引き寄せて、資料を手渡した。
彼の手のひらが私の手の甲を包む。
私はかすかに身震いしながらその手を引こうとすると、彼が私の手を強く握った。
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