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家に着くと…
『家』
私は渉さんの家を『家』と認識していた。
私の帰るべき場所に…
渉さんや会長、佐和子さんがしてくれた。
「ただいま帰りました」
いつも黙って入る渉さんの代わりに、今日は私が挨拶をしながらダイニングに入ると、既にお腹を刺激するいい匂いが漂っていた。
「お帰りなさいませ」
佐和子さんの明るい声の奥から、もう一つ深く温かい声がする。
「おかえり」
ゆったりとソファに腰を下ろした会長だった。
「今日は二人揃っての帰りか…。うらやましいな」
会長は目じりに皺(シワ)を寄せて笑った。
私と渉さんの早目の帰宅に気を良くした会長の横で佐和子さんは少し驚いていた。
渉さんがこの時間に帰ることは滅多にないからだ。
「まあまあ。今日は坊ちゃまもお早いんですね?何かこの後ご予定でも?」
「仕事じゃねえけど、予定はある」
「お出掛けですか?」
「いや、そうじゃない」
「…そうですか」
佐和子さんは首をかしげて、そのまま視線を私で止めた。
こんな言い方じゃ、佐和子さんが理解できないのも当然だろう。
だいたい…予定って…。
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