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「…ったく、朝から最悪な電話だ。問題ねえと思うが、確かめてくる」
E社はグループ会社の工場。製造部門だ。大型機械の故障で、そのマシーンから水漏れがしていて工場の床が一部水浸しということだった。
機械の不具合というだけでは済まない重大な問題だった。
渉さんは自分から腕を伸ばしてお盆からコーヒーカップを手に取った。
「飲んでる場合じゃねえけど、毎日の日課みてえなもんだからな。俺の…まじないみたいなもんだ」
「…おまじない…ですか?」
「これ飲んでりゃ、上手くいきそうな…ってな」
渉さんはコーヒーを立ったまま飲み、その間にもすぐに出られるように準備を進める。
「何か報告は?」
「…特に…ありません」
…言えなかった。
こんな時に…
渉さんに余計な心配をかけたくなかった。
「また連絡する」
渉さんはコーヒーを飲み終わるとすぐに社長室を出た。
エレベーターまで送ると、扉が閉まる前に渉さんの携帯に電話が入り、渉さんは忙(セワ)しなくその相手と話し始めた。
私はエレベーターの外から渉さんに頭を下げて見送った。
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