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私がお風呂から戻ると、入れ違いに会長がソファから立ち上がる。
「そろそろ休ませてもらうよ。桐谷くん、おやすみ」
「はい、おやすみなさい、会長」
考えてみたら本当に不思議な光景だ。
ずっと憧れ、尊敬してきた会長とお風呂上がりにスッピンでおやすみを交わしているのだから。
会長がダイニングを出て行くと、その後を追うように渉さんも席を立った。
「一時間後に部屋に来い。親父が眠るまで本当に仕事を片付ける。楽しみはそれからだ」
「会長が…眠る?」
「たっぷり酒を飲ましてやった。いい気分で寝るだろうけど、今日は熟睡しててもらわねえと」
「……!?」
「一時間後な」
渉さんは最後に耳元で囁(ササヤ)いた。
「サワさんは離れだから問題ない」
私は真っ赤にした顔を、水道の音のするキッチンに向けた。
佐和子さんは明日の朝食の下ごしらえをしているようだったけど、私の視線に気付いたのか急に顔を上げた。
にこりと笑う佐和子さんの笑顔に私は火照った顔のまま笑顔を返した。
一時間後…。
私は時計を見つめながら
また顔の赤みを増していた。
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