怪奇現象

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静かな部屋にキーボードの細かな音が休みなく聞こえていた。 私はベッドから離れて書棚を覗いた。 渉さんの仕事が終わるまで、何か読むものはないかとぎっしり並んだ本の背表紙を目で追った。 …難しい本ばっかり…。 経営に関するものや、化学や工学、政治、経済。タイトルだけで開くのも気が引けるような難しい本でいっぱいだった。 その中に少し埃(ホコリ)をかぶった…アルバムをみつけた。 それを手に取ろうとして… 少しためらう。 渉さんにはお母さんがいない。 実の…お父さんも。 そのいきさつを、私は詳しくは聞かされていなかった。 渉さんにとっては… 辛い過去が詰まっているのかもしれない…。 私がそのアルバムを見つめていると、渉さんが声をあげた。 「あーーー、終わった」 渉さんはリクライニング式のイスの背もたれにゆったりともたれて背筋を伸ばした。 そして、私を見る。 「なんかおもしれえ本でもあったのか?」 「…難しそうな本…ばっかりですね…」 そう言いながら私の視線が最後にそのアルバムに残ったことを渉さんは見逃さなかった。 「…アルバムか?」 「え…?」 「見るか?」 渉さんは明るく言った。 「…いいんですか?」 「ダメなわけねえだろ。俺、ガキの頃からイケてるし」 渉さんは書棚の下の方にあったアルバムをかがんで取り出し、一度ベッドに寝転んでから背もたれを背にしてカラダを起こした。 私も渉さんの隣に座った。 渉さんがアルバムをめくる瞬間、少しだけドキドキした。 私の知らない…渉さんの過去。
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