第1章

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1 SIDE:樵の若者 俺はいつものように森の中を歩いていた。 夏の少々蒸し暑い森を歩くのは俺の家業である樵の仕事をするためだ。 今日は村外れの森で家を建てるために近々切り出す木を見に行くべく、ひたすら歩いている。いつもは父さんにひっついていくのだが、今回は町に行っているため俺一人だ。 もちろん、こんな森に一人で入るような人間は俺の家の人以外はいない。 見渡すかぎり、緑緑緑… 同じような景色ばかりなので初見だと迷いやすいが長年この森を歩いてきた樵にとっては庭のようなものである。 獣道に沿って歩き、ブナ林を横切り、杉林に入って少し休む。 さすがに夏の日差しも杉林では柔らかい光になっている。 持ってきた水を飲み、お昼にしようかと思ったがあまり腹が空いていなかったのでそのまま出発することにした。 歩きながら、俺はあることを思い出した。 そういえば、明日はじいさんの命日だ。何周忌だったかハッキリとは思い出せないが…家に帰ればすぐわかることだ。 町にいる父さんはじいさんの命日をすっかり忘れてしまっているだろう。後で連絡しないと。 俺が幼いうちに死んでしまったじいさんがしてくれた話はどれも面白くて好きだったが、中でもエルフの話はかなり気に入っていた気がする。 じいさんがしてくれたエルフの話は村人だけじゃなく、他の国のひとも結構知っていて、誰でも小さい頃に聞くポピュラーな話らしい。 エルフが住んでいる森っていうのはどんな所なんだろうか。俺は村を出たことはないからこの森しか知らない。 「この森だって結構綺麗だと思うけどなあ…」 そんな俺のつぶやきは木立の隙間に消えた。 途中、大木を横切った。家を建てるのには向かない、こぶの沢山出来た木だ。この大きな木の枝のせいで、周りには新しい木が生えて来ない。 父さんがこの前もう少ししたらこの木を切ってしまい、家の柱用に杉の木を植えようと言って、幹に赤いチョークで目印を付けた。せっかくの立派な木で罪悪感はあるが、と困ったような笑みで。 俺は仕事ってそういうもんじゃないすかと、無関心を装いながらもいつか切られる運命の大木をじっと見ていた。 樵というのは、森林を侵しているようで実はそうではない。森が健康的に豊かにいれるために必要なものだ。森にとっていらない木を刈り、生えすぎた下草を村に持っていく。畑に要る堆肥も一緒に。
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