10643人が本棚に入れています
本棚に追加
静かに彼は唇を首筋に這わせる。
妙にくすぐったくて、ゾクゾクと身の毛がよだつ。
「ねぇ、俺のことどんくらい好き?」
色っぽさが充満した低音が紡いだひょんな質問。
首から広がる刺激にばかり意識を持って行かれて、正常な思考が働かない。
「子供みたいなこと聞かないでくださいよ」
と、適当に流そうとしても、
「いーやーだ。聞きたいの」
と駄々をこねる口調でいながらも、撫でるように耳の裏まで上っていた舌の動きを止めることもない。
なんてアンバランスな場面なのだろうか、と俯瞰する余裕もありゃしない。
「で、どんくらい?」
「……今すぐ殴り飛ばしたいくらいに」
すっと耳元から離れた彼は毒吐くあたしを見降ろし、ふわりと柔和な面持ちに移ろいでいく。
「俺は鈴に全部あげてもあげたりないくらいなんだけどね」
この人は蜜と毒を融合させた、魔薬のようなものだ。
いくどもいくども、なす術もないままに踊らされても。
救いようがないほどに手離せなくて、欲し続けてしまう。
だけど、分かってるんだ。
こんなあたしの我儘な本音を吐かせてくれるのも、
それを甘んじて受け入れてくれるのも、
きっと彼しかいないってこと。
静かなキスと共に、この欲張りな心も全て彼に捧げよう。
「椎名さんだけください。それで充分です」
「…………」
「そんなに照れるんですか?」
「……うっさい」
今なら、確信できる。
彼なら、それはそれは恥ずかしくなるような大きな愛で
全部、全部、包み込んでくれるってね。
【番外編 完】
最初のコメントを投稿しよう!