プレゼントは夢幻の境地

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「鈴ちゃんの彼氏って…」 眉を寄せた良太さんは、呆然とした面持ちで視線を何処かに移して。 …終わった。 ついに来てしまったと、死と直面するかのような心境で無意識に目を瞑った。 「ちょっとあんた!椎名様相手に馴れ馴れしいのよっ!」 …はい? 店内に響いた甲高い声の主はもちろんあーちゃんで、あんた呼ばわりをされる相手は、知らぬ間に椎名さんの真横まで行っていたヒロさんしかいない。 椎名様、って。 いつからそんな風に呼び始めたんだ。 「いいだろ!サインぐらいっ!」 「あたしなんか緊張して言えなかったのに!このバカ!」 先程の緊迫した空気から、一瞬にしてコメディ化され、肩透かしを食らった気分になる。 いや、助かったんだけれども、だ。 ずっと沈黙を貫いていた椎名さんが、頬杖をつき、横にいる彼達を見上げたのが分かった。 「…あーちゃん、だよね?」 「えっ!あ、あたしの名前…っ!」 あんまり友達の事とか話してないのに、なんで知って… ああ…電話、か。 昨日の電話、椎名さん、隣に居たんだったな。 …あれ? ってことは、だ。 ふと頭に過った疑念に、悪寒が走る。 もしかして昨日の会話、全部聞こえてた…?
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