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文化祭から、あっという間に一ヶ月が過ぎた。
仕事が早く終わった時は家に来てもらうし、バイト先から家に送るだけの日もある。
忙しいせいでそんな頻繁には会えるわけではないが、充実は、してる。
多分、今が一番幸せだと思う。
片思いしていた時には考えられなかった、会える権利を得たのだから。
ただ満たされていると幸せが、イコールではないということ。
むしろ対極に位置しているのを痛感し始めたのは、いつからだろうか。
「今日もありがとうございます」
「うん」
今日は、家まで送るだけ。
でも少しでも顔が見れるなら、彼女と同じ空間にいれるなら、全然気にならない。
そう思っていた、のに。
「帰り、気をつけて下さいね」
「おやすみ」
柔らかく笑って頷いた彼女は、助手席のドアを開けた。
この瞬間、またいつもの寂しさが怒濤のように襲いかかって。
それでも彼女が家に入るのを見届けるまでは、安心できない。
何度も振り返って、手を振る彼女はきっと、分からないだろう。
扉の中へ入っていく小さな背中を見つめる俺が、今、何を思っているのか。
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