10617人が本棚に入れています
本棚に追加
/506ページ
「相手は一般人なんだからさ…この業界でもそんな高額な」
「もううるさいってば」
車に戻っても、ずっと同じ事の繰り返し。
姑かと言いたくなるような、ねちっこさ。
「社長に言った瞬間、お茶吹き出してたんだぞ?」
「そんなこと知らないし」
相変わらず芸人顔負けのリアクションだな。
っていうか、まずそんな報告自体をしないで欲しい。
「交際も発表する必要なんかなかったと思うんだ。そこまでする」
「もういいって」
数週間前に参加した、視聴率の高い番組。
そこで付き合っていることを打ち明けることに、社長も近藤さんもかなり反対だった。
それでも最終折れてくれたことには感謝してるし、こんな風に言うのも俺を想っての事だと重々承知している。
「お前さ、…逃げられたらどうすんだよ」
「え?」
顔を歪めた近藤さんは、言いにくそうに再度口を開いた。
「だって鈴ちゃんまだ大学生だぞ。まだ社会人にもなってないし、出会いなんてこれから腐る程あるだろう」
「…考え過ぎ」
何故この人は、いつも人の急所を易易と衝いてくるのか。
平然を装ってみたものの、その言葉はしっかりと胸を貫いた。
「もしもの時の事も考えておけってことだよ」
「はいはい、分かりましたよ」
…そんな忠告、聞きたくもない。
嫌というほど、自分で、分かってるのに。
最初のコメントを投稿しよう!