堂々めぐりの黒と欲

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「相手は一般人なんだからさ…この業界でもそんな高額な」 「もううるさいってば」 車に戻っても、ずっと同じ事の繰り返し。 姑かと言いたくなるような、ねちっこさ。 「社長に言った瞬間、お茶吹き出してたんだぞ?」 「そんなこと知らないし」 相変わらず芸人顔負けのリアクションだな。 っていうか、まずそんな報告自体をしないで欲しい。 「交際も発表する必要なんかなかったと思うんだ。そこまでする」 「もういいって」 数週間前に参加した、視聴率の高い番組。 そこで付き合っていることを打ち明けることに、社長も近藤さんもかなり反対だった。 それでも最終折れてくれたことには感謝してるし、こんな風に言うのも俺を想っての事だと重々承知している。 「お前さ、…逃げられたらどうすんだよ」 「え?」 顔を歪めた近藤さんは、言いにくそうに再度口を開いた。 「だって鈴ちゃんまだ大学生だぞ。まだ社会人にもなってないし、出会いなんてこれから腐る程あるだろう」 「…考え過ぎ」 何故この人は、いつも人の急所を易易と衝いてくるのか。 平然を装ってみたものの、その言葉はしっかりと胸を貫いた。 「もしもの時の事も考えておけってことだよ」 「はいはい、分かりましたよ」 …そんな忠告、聞きたくもない。 嫌というほど、自分で、分かってるのに。
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