ご挨拶に伺います。

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驚く事って、名前と養子のことだったんだな。 ちゃんと聞けなかったのは残念だったけど、多分、また話してくれるはず。 まだ頬に残る感触を浸りながら、家に戻ると、お母さんは少し顔をしかめていて。 「あんたって子は。なんでもっと早くに言ってくれなかったの」 …すっかり忘れてた。 まだここが片付けてないんだった。 「あたしびっくりして、心臓止まるかと思ったわよ」 「…ごめんなさい」 「でもテレビで見るより、本物の方が百倍かっこいいわ」 「…うん」 「何より、本当にいい人ね」 「…うん」 「お父さんにあんな真剣に手を合わせてくれる姿見たら、あたしでも惚れるわー」 …そう。 椎名さんは帰り際、長い間、お父さんのお仏壇に手を合わせてくれていた。 あの時は、言葉に言い表せない感情で胸がいっぱいになって。 お礼もちゃんと、言えてない。 「鈴、あれは逃がしちゃダメだからね」 「うん…逃げられないように頑張る」 優しくて、思いやりに溢れてて。 子供っぽいような、それでいてすごく男らしくて。 セクハラ魔人だし、夜の帝王だし、小悪魔だけど。 あたしの事を、本当に大切にしてくれてる。 あんな素敵な人は、もういない。 『とんでもないです。真っ直ぐで心優しく、大切に育てられたのがひしひしと伝わってきます。本当に僕には勿体無いくらいです。』 あたしにこそ、勿体無いくらいだよ。 神様、出会わせてくれて、本当にありがとう。 目一杯、精一杯、大切にします。
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