ありったけの私を君に捧ぐ

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首を屈める彼の文句の付けようもない顔との距離は20cmもない。 先ほどの愛おしいと覚える淡い褐色の目は、心なしか普段の9割増しの色めいていて。 いつもと違うシャンプーの香りが、脈拍数を上げる。 「もっかい言って」 「…え?」 「さっきの。もっかい」 意味を理解したと同時に、温泉卵を作れる熱は一瞬にして、ホットケーキを焼けるほどまでに上昇したのは全くもって気のせいではなくて。 「…さっき、言ったじゃないですか」 「うん。でももっかい聞きたい」 これは、何かの罰ゲームではないだろうか。 既にこの体勢で、もう保たないと心臓が雄叫びをあげているのに、だ。 「早く」 「…です」 「なんて?」 「…きです」 「聞こえない」 「すっ…すき、です」 「だから聞こえないって」 「なんでそんなっ、」 不服を申し立てようとした手前で、目の前にある恍惚な微笑みに目を奪われた。 高温を帯びた指はいつの間にか、頬に当たっていたマスクの違和感を拭い去っていく。 尖った鼻先が微かに左唇の上を掠めて 横目に映る狡猾なまでに上がった口角は、魔物そのもの。 「早く言ってくれないと出来ないんだけど?」 頭の片隅でパチンッ…と弾けたものは、一体何だろう。 それは初めて、自ら欲した瞬間。 奪うように、しがみつくように。 久しい柔らかなその感触を、本能のままに求めていた。
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