家長様、教祖様!

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「あれ?裕司、玲どこ行った?」 「…逃げるように帰って行きました」 「また?!」 「…明日の休みは電話に出ないと言い残してね」 「またあの子か?」 「それしかないでしょう。…もうそっとしときましょう。今の奴の脳には虫が湧いてるんです」 「煩悩にも程があるだろう。"あれ"にはさすがに引いたぞ、俺…」 「恋を知らなかった奴が目覚めた時の恐ろしさですよ…」 そんな会話がなされている事など、知る由もないあたしは今、台所で身の危険を感じている。 「椎名さんっ!」 「んー?」 「もうセクハラですっ!」 「知ってる知ってる」 ただでさえ掴みにくい長芋を切ろうとしている時に、後ろから抱きついて来た椎名さん。 そしてこともあろうか、首筋に顔を埋めて、胸あたりを手を回してきている。 「こんなんじゃ料理できませんよっ。あと、手!どこ触ってるんですか!」 「胸を触ろうか悩んでる」 「えっ?!ちょっ!」 お母さん達の挨拶を済ませて以来、スキンシップが可笑しいほどに過剰になって。 家に居る時は、常に引っ付いて、セクハラをし続けている。 「あー、鈴の嫌がる声、大好き」 「はっ?!」 「今日もおバカ満開」 「もう手っ!包丁っ!ってバカ満開はそっちでしょう!」 「ねぇ、お腹空いたー」 「だから大人しくリビングで待ってて下さいって」 「セクハラできないから嫌」 「………」 一層の事、このまま刺してやろうか。 殺意が芽生えた瞬間だった。
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