第5話

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辰巳さんは、何も言わずにずっと待ってくれている。 ディナーが終わり、私と辰巳さんは夜景が見える、展望台に来ていた。 人はまばらで、静かな空間。 ここは取引先ともよく会食する、格式高いホテルなんだとか。 イベントごとがあると、辰巳さんは自分が知っている数ある中のホテルから選んで、いろいろな場所で祝ったりデートしてくれた。 あまりお金を使わないでと言っても、好きな女に喜んでもらう為だとか、俺が由莉の為に出来ることはこれくらいだからと言って押し切る。 そういえば、辰巳さんと一緒に居るようになってから、私は泣くことがなくなった。 笑うことが多くなり、喧嘩もしていない。 そんなことを考えながら、しばらく無言で景色を眺めていた。 すると、コツコツとヒールの音が、近づいてきているのに気づく。 振り向けば、いつかの女の人。 鬼のような形相で、私に近付く。 私と向き合うように、立ち止まる。 パンっと乾いた音が、展望フロアに響き渡った。 左の頬に、鈍い痛みが走る。
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