153人が本棚に入れています
本棚に追加
辰巳さんは、何も言わずにずっと待ってくれている。
ディナーが終わり、私と辰巳さんは夜景が見える、展望台に来ていた。
人はまばらで、静かな空間。
ここは取引先ともよく会食する、格式高いホテルなんだとか。
イベントごとがあると、辰巳さんは自分が知っている数ある中のホテルから選んで、いろいろな場所で祝ったりデートしてくれた。
あまりお金を使わないでと言っても、好きな女に喜んでもらう為だとか、俺が由莉の為に出来ることはこれくらいだからと言って押し切る。
そういえば、辰巳さんと一緒に居るようになってから、私は泣くことがなくなった。
笑うことが多くなり、喧嘩もしていない。
そんなことを考えながら、しばらく無言で景色を眺めていた。
すると、コツコツとヒールの音が、近づいてきているのに気づく。
振り向けば、いつかの女の人。
鬼のような形相で、私に近付く。
私と向き合うように、立ち止まる。
パンっと乾いた音が、展望フロアに響き渡った。
左の頬に、鈍い痛みが走る。
最初のコメントを投稿しよう!