第1章 精獣とは俺ですか

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俺はその時、身体中が、 ニュルン、ニュルン と、いう感じになっていた。 ぷくぷくした出口から、 ぬろーん、 と、外に顔を出した。 外の状況を見て、 俺は、驚いた。 俺は、女の子の口から顔を出していた。 俺は、その朝、大学に行くべく、アパートのドアをいつものように開けた。 いい天気だ。アパート隣の神社の桜がきれいに咲いている。 何か体が調子が変だ。 ま、気にしない。 今日は講義終了後、所属サークルの空手部の合宿にそのまま向かうために、荷物が多かった。 新人も入って来たので、賑やかなものになるだろう。  空手部とはいっても、ガチガチの武闘派空手部ではなく、女子もいる穏やかなサークルなのだ。 だが、これは、武道を邁進する俺の息抜きである。 俺の叔父の青葉 深太郎は、透心流拳術という武術の21代目師範であり、道場をひらいている。 透心流拳術は空手に似ており、遠当てが技術の核になっているうさんくさい拳法だ。 遠当てとは、気合いで離れた位置の敵を倒す技で、直接相手に触らなくとも倒せる。 うさんくさいことこの上ない。 だが、確かに深太郎さんはその技で今まで何人もの格闘家や武術家を破ってきた。俺が知る限り、日本最強だ。 怪しいが、実績はあるのだ。 深太郎さんの娘、俺のいとこの青葉恵琉が、22代目となり道場を守っていくだろう。  俺より4つ歳上の恵琉は見かけは華奢でかわいいが、実力はいずれ深太郎さんを抜くことは間違いない。  あるいはもう抜いているかも知れない。 かくいう俺も数年前までは習っており、遠当ても、形だけは出来る。恵琉ほどの威力は無い。  ていうか、ぜんぜん及ばない。 恵琉はプロレスラーでも遠当てで、吹っ飛ばす。 昔、恵琉と組手をやって、ぶっ飛ばされたことがある。  その時から俺は、強くなり、深太郎さんと恵琉を倒すことを目標に据えた。  早い話、日本一ってことだ。 同じ透心流をやっていては、才能溢れるサラブレッドの恵琉に勝てる見込みは少ない。 俺は、あちこちの道場を渡り歩いた。  今は、正真流空手の矢島 専という先生の道場に主に行っている。 そんなことばかりやってたら、息が詰まる。そこで学校では、息抜きのつもりで軟派な空手サークルに入ったのだ。 その時点で自分でも、その程度の努力では、恵琉を追い越せないような気はしている。 わかっている。
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