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いつもように道の整備をしていた。といっても、彼のすることはあまりない。見回りと、隣にいる相棒にただお願いするだけだった。けれど、いつ相棒がいなくなってもいいように、それと少なからずこの道に愛着があり、できる限り自分で整備もしているのだが、流石に手が足りない。
山の中に伸びる一本の長い道。それはまっすぐ頂上のログハウスまで続いているのだが、それを知る人はほとんどいない。
通る人が少ない道。普通ならそんな道はすぐに荒れてしまうのだが、この道は例外だ。
車さえ余裕で通れるそれは、いつ、誰が通っても危なくないようにしていた。
少年の小さな願いだった。誰かに会いに来て欲しいという、小さな、強い願いだった。それに呼応するように、神様はこの少年と道を守っていた。
ふう、と彼は息を吐く。一休みしようかと提案する。疲れていたのは少年だけだったか、隣の神様はそれに従った。
道の端により、お尻をつく。椅子なんて気の利いたものはなかったし、まさか数分の休憩のために切り株をこしらえるわけにはいかない。それに足元は触るとポキポキとなる気持ちいい芝生が植えていったので、雨も降っていない今、お尻が汚れる心配もない。
いい天気だと少年は空を見上げた。けど、少し暑いねと付け足した。首にかけてあったタオルで汗を吹くと、途端に風が吹き出した。
少年はそれが隣で伏せている神様が起こしてくれたものだとすぐに気付いた。
ありがと、とお礼を言う。神様は尻尾を降ってそれに答えた。
少年はタオルを首に掛け直し、隣の神様を撫でようと腕を伸ばす。すると、突然スクっと神様が体を起こした。
「どうしたの? ウォン」
少年は問う。道の先を見据える美しい緑の毛並みを持つ狼、風の神様、ウォンに。
「なにか見つけたの?」
そう言って、少年はお尻を持ち上げる。ぽんぽんと草を払う。ウォンの視線を目で追うと、少年も、彼を見つけた。
いつからいたのか、まるで最初からそこにいたように、彼は道の中央に立っていた。
遠目で見てもわかった。彼は知ってる人だった。
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