1295人が本棚に入れています
本棚に追加
「起きたか」
「それに、だいぶ落ち着いたよ」
「十全だ」
背中に投げる会話。これで成立することが恐ろしい。
「あんた、まるで後ろが見えてるように話すけど、第三の目でも開眼してんのか?」
「それは額にあるものだ。後ろは見えない」
「……決めつけるのはどうかと思うが」
「そんなもんなくとも、足音や衣擦れ、声さえ聞けばだいたいの状況は掴める」
「そんなもんか?」
「経験だ。一日何人相手にすると思ってる。その相手一人ひとりに向き合って話なぞ聴いてたら、仕事が進められん」
大輔がまた席に戻る。テーブルの上にはクッキーとコーヒーがそのままになっていた。コーヒーをすすると、やはりというか冷めている。冷たいコーヒーも好きだが、やはりここは暖かいのを、と思って二人分新しく煎れなおした。湯気が立ち上るそれを持って席に行くと、ちょうど神も席に戻るところだった。
無駄がない人だ。
「で、どこまで話したかな」
神はそういうが、この人が忘れるはずがない。ただ、会話を始める繋ぎをして、言っただけだ。大輔が言う前に、言葉を紡ぐ。
最初のコメントを投稿しよう!