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アイマスク代わりにしていた文庫本がひょいと持ち上げられる。両目を潰していた重しがなくなり、黒子 脚斗は目を開けた。
ずっと圧迫されていたためしばらく視界は滲んでいたが、
「エッチ」
覗き込む彼女を見えたときそう言った。
「何の用だ?」
「………用、というもののほどでは」
諸星 零は微笑む。取り上げた文庫本をパラパラと捲り、スピンを挟んで閉じた。文庫本はしっかりとしたブックカバーがかけてあり、日に焼けて良い色になっていた。
「鍵はかけていたんだけどな」
「幽霊に鍵なんてものは無意味ですよ」
「足音もしなかったし」
「まあ、その気になれば宙に浮けますから」
「気配もしなかった」
「死んでる人に気配もなにもありませんよ」
「幽霊ってのは万能だな」
「あなたにできないことが少しできるだけです」
脚斗は大きなあくびをして、出てきた涙を指で拭った。
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