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  もう何年経ったか判らない。誕生日の祝いもしなかった。本人が誕生日を知らないから。 兎にも角にも、すっかり変わった彼女に当初の面影は見えない。その為か、誰も気付かなかった。他にも、真っ白な色のローブを羽織った者もいるからか。橙色のローブは目立たないようで。 商店街にある、商品を見ながら歩く。一歩一歩、自分の足で。心残りはないのか、見るものがないのか飽きたのか判らないが、リンはその場から転移した。転移した先は、薔薇が香る庭先。その庭には、白髪混じりの婦人が一人、白い色の椅子に座っていた。此方には、気付いていないらしく。 一歩一歩歩き、ご婦人に近寄る。近寄る者に気付いたのか、そちらを見遣るご婦人の顔は見る見る内に驚いた表情をし、次第に目から涙を溢(こぼ)し始めていく。その涙に気付き、足早に歩み寄ったリンは、指先で涙を拭う。 「リ、リンなのね?」 そう聞くご婦人に、リンは頷く。そして、抱き締められる。 抵抗する気もないのか、リンもまたご婦人を、いや久しぶりに会った母親を抱き締めた。 「母様、お久しぶりです。」 涙声のリンに、近くの窓際にいた使用人は状況を知るや否や誰かを呼びに行く。 そして、慌立だしく庭に駆け込み、リンとご婦人いや妻諸共(もろとも)に抱き締めたのは、リンの父親。 「リンよ、帰って来てくれたのか。」 その問いに、リンは頭(かぶり)を振るう。 「今世話になっている場所は居心地の良い場所で。一度会いに行きなさいと諭されました。これを渡しに。」 そう言って、抱き締められた状態で二人に硝子製の箱を渡す。  
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