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幼稚園への送り迎えにはじまり、よく枕元で本を読んでくれた。こたつでお喋りしながら、みかんの皮を剥いてもらった。
祖母とのやり取りを思い出すと涙がこぼれそうになり、好美は無理に笑顔をつくろった。
「おかあさん、おばあちゃん、きっと元気になるわよ。二人でそうお祈りしようよ。私、おばあちゃんの様子、見てくる」
好美が再び二階へ上がると、祖母は床の上に半身を起こしていた。
「おばあちゃん、寝てなきゃ駄目だよ」
好美がそう言うと、祖母は曖昧な微笑を浮かべた。
「好美ちゃん、仏壇から、大輔の写真、取って来てくれる?」
祖母の言葉にいぶかったが、好美は仏壇の前に飾ってある父の写真を持って来て、祖母に手渡した。
葬式に使ったスナップで、生前の父が額の中からにこやかに笑いかけている。
祖母はしばらく愛しそうに写真を眺めてから、口を開いた。
「大輔が死ぬ前に、頼まれたの。天国に来る時は好美のウェディング写真を持って来てくれ、って」
天国、という言葉に好美はどきりとした。
ひょっとして、祖母は自分がガンだということを、気づいているのかもしれない。
「おばあちゃん、・・縁起でもないこと言わないでよ。いやだな、驚いちゃうじゃない」
好美は意図して笑顔をこしらえ、寝間着姿の祖母の肩に、座敷の端に畳まれていたバーバリーのケープを掛けてあげた。クリスマスにプレゼントした品で、祖母はそれ以来このケープを愛用してくれている。
祖母は諦めたかのような微笑を浮かべ、好美をじっと見つめた。
「病気のせいで弱気になっているのかもしれないけれど、最近おじいちゃんや大輔の夢をよく見るの。それで大輔の最後の頼み、急に思い出したんだよ。
好美ちゃんも、もう数えで三十でしょ? 誰かいい方とご縁があるといいのにね」
好美は笑って誤魔化すことにした。
「私、結婚する予定なんてまだまったくないし、彼氏もいないし。・・だから、それだったら尚更、おばあちゃんにはずっと元気でいてもらわなくちゃ」
「好美ちゃんの結婚を大輔に代って見届けよう、ってあの子が死んだ時に誓ったんだけれど、こう身体が弱ってしまうと・・。もうあんまり長くないんじゃないか、って心配になるのよ」
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