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マンションから見える桜が開花し始めた頃。 私は桜を見る余裕もなく外の風景を背にし、目の前にある原稿と睨みあっていた。 キャラクター、コマ割、ネタ、〆切という特殊な仕事に追われる私は、春の麗らかな日差しが生む驚異的なほどの睡魔と戦っている最中。 しばらくまともに寝ていないのに、ちょうどよい温もりの日差しを背に背負うと、うっかり意識が飛んでいたりする。 「よしのちゃん?おーいよしのちゃん!」 「はっ....!お、落ちてたごめん」 2日前からこんなやりとりが頻繁と化しているのだけど、これは私に限ったことではなくアシスタントの皆も似たような行動をしている。 ようは皆寝不足。私が冬に寒い寒いとこたつで丸くなっている間に、いつの間にか春で〆切で、ってことになっちゃったから、眠いなんて発した際には皆からの冷たい視線を浴びることとなる。 こんなところでボイコットされては堪らない、と自分を脅しながら、ため息と共にポロリと出そうな心境を寸でで腹に押し込めるのも、もう何度めか。あんなに恋しかった暖かい日差しも今は恨めしいばかりだ。 振り返って睨もうものなら、日陰者には辛いふんだんな日射しで跳ね返されてしまう始末。 「だが私は負けん!!」 「おいこら、どこ向いてんのさ。そっちによしの先生の仕事はないぞ」 「すみません。現実逃避です」 そして、アシスタントに怒られることもしばしば。 「急に叫ぶからびっくりしたよー。はみ出さなくて良かったー」 「てか何と戦ってたんですか。あ、答えなくていいです忙しいので」 「う゛、重ね重ねすみません」 久々にみたお天道様の端に桜の木が映り、やっと桜が咲いてることに気がついたものの、仕事で一生懸命の皆の前では、いくら私が馬鹿でも、『花見』なんて暢気な提案を口に出せるわけがなかった。
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