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『……なにも、言ってないです』
言葉ではそう繕うものの、内心は暴風雨のように荒れ狂っていた。
思わずこぼれた、だからこそより本心に酷似した呟きに触発され、勇次郎の感情が引きずり出される。伏せている瞳が剣呑な光を放ち――
『…………』
結局。勇次郎の胸中で渦巻く情念は言葉にならなかった。
『……まあいい。引き続き、勇太郎の邪魔をするな。勿論、余計なことも吹き込むんじゃない。私が言いたいのはそれだけだ』
『はい』
終始勇次郎に刺すような視線を注いでいた勇大だったが、話が終わると、途端に興味を失ったように目を逸らした。
再び勇次郎を見ることなく、迷いのない足取りで家屋へと戻っていく。その頭には今日一日の予定が隈無く巡らされていて、もう勇次郎のことなど欠片も存在していなかった。
『……もう、疲れた』
勇大の姿が見えなくなった後、ようやく、勇次郎は乾いた声で呟いた。
『ここで生きるのは死んでるのと一緒だ。でも、オレは、一人じゃ生きてけない。子供って、惨めだ』
内に溜め込みすぎた情念は膨大すぎて、喉につっかえて上手く吐き出せない。心に取り付けた栓を慎重に捻り、少しずつ、訥々と言葉にして感情を逃がす。
『もう、逃げたい……誰か……っ!』
乾いていた声音が一転、水気を帯びたその時。
『はーい、ここで誰かさんのとーじょーでーす!』
ヒーローは現れた。
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