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植木に紛れるようにして建つ白塗りの塀に腰掛け、足を所在なさげに揺らす人物を視認した勇次郎は、驚愕を露に目を見開く。
『明人兄ちゃん!?』
『そうでーす! 勇次郎の味方、金糸雀明人兄ちゃんですよー!』
笑顔で肯定すると、明人は身軽な動作で塀から飛び降りた。静かに着地し、乱れた髪を手ぐしで整える。男にしては長く、指通りのよい金髪は、数秒で毛先を揃えた。
『え……明人兄ちゃん、今、かなりあって言った?』
『うん、言ったよ?』
『明人兄ちゃんの名字、硫黄だよな?』
『あー。それね、偽名』
『偽名!?』
非現実的とも思える秘密をさらりと暴露され、勇次郎はつい明人を凝視した。
『ぷっ。勇次郎、変な顔してんぜー?』
動揺と猜疑に溢れる視線を受け止めて尚、明人は超然とした笑みを崩さない。
『ま、俺のことはおーいーとーいーてっ! 勇次郎、助けてほしい誰かさんに言うことはなーい?』
『言うこと?』
『そそ、例えばさっき泣きそうな顔で漏らしたこととか』
『な、泣いてねーよ! てか……え』
からかいを含んだ誘導に噛み付いてから、そこで漸く勇次郎は気付いた。
『……明人兄ちゃん?』
明人は、自分に助けを求めることを促しているのだと。
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