終章

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「こら、和臣。危ないから無茶しないでよ」  彩は苦笑を浮かべながら和臣を注意する。 「わーってるよ。でもさ、万が一怪我しても、ここ、病院だしな?」 「怒るからね!」  わざと眦(まなじり)を吊り上げて和臣を窘(たしな)めるが、すぐに唇が綻んでしまう。  小さく息をついた彩の顔に浮かぶもの、それは安らいだ笑みだった。 「ふふふっ、せんせ、さっきのおしえて!」  ぐるぐるが終わったさっきの女の子が、また彩の元まで戻ってきた。 「え? さっきのって……あ、ヒルガオの花言葉?」 「うん、そう!」 「確か、『優しい愛情』だったと思うよ」 「優しい……? ふふ、せんせみたいね!」  そう言って笑うと、少女はまた和臣の所へと駆けて行く。  ぐるぐるの最後尾に並んで、こちらに向かって手を振っている。  彩も手を振り返す。  昼顔の花言葉と同じ優しく穏やかな愛情が、今、自分の周りを温かく包んでいる。  それがどんなに得難く尊いものか、彩は知っていた。  彩は和臣を見つめた。  全ては彼が与えてくれるものだった。  和臣と子供たちの笑い声に、彩の唇も優しい弧を描く。  窓の縁に寄りかかって外を眺める彩の頬を、乾いた風がふわりと撫でた。  花壇の褥(しとね)で淡いピンクの昼顔が、夕焼けの光を纏(まと)い、かさりと小さな音を立てた。 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇end◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
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