第2話 結婚のご提案

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 実家は大きな造りで、訊かれてみると窓は無数にあり、特定するのは難しい。  しかし兄として知らないとは言えず、一階の居間の大きな窓に違いないと見当を付けた。  居間にはささやかな模造品のクリスマスツリーが飾ってあり、純和式の家でそこだけがクリスマスしていたからだ。  皆が寝静まった後に、幼い早苗を連れて二階の子供部屋から居間に下り、二人で交代しながらサンタさんを待ち伏せするはずだった。  今でもどちらが見張り番をサボって眠りこけたのか、笑い話にすることがある。  朝方目覚めたら自分の床に寝かされており、ちゃんと枕元にサンタさんからのプレゼントが置かれていたのだった。  ミニーマウスの人形を胸に抱き締めている姪は幼い頃の早苗にそっくりで、親子って面白いものだ、と思う。  あっと言う間にそれだけの年月が流れたことに、正直言って驚かされる。  こちらは独身だからか学生時代の気分が抜け切らず、老けたという自覚はさらさらないのだが、赤ん坊だった姪や甥が歩き出し、逢うたびに大きく育っているのを見るにつけ、周囲ではどんどん年月が経っているらしいことに、ふと気づかされるのだ。  義弟の吉雄は早苗と同い年で敬一より若いけれど、二人の子供の父親としてそれなりの貫禄を見せていた。  早苗に頼まれて、乳母車やスーツケースやら東京ディズニーランド土産を次々と自家用車に積んでいる吉雄の姿に、家長としての男らしさを垣間見た気がしする。  同時に、羨望に似たものを感じざるを得ない。  こちらは大都会東京で、流行りの情報関連業界の、それも先端を行く仕事をしている。  それなりの自負はあるけれど、それが何だ、という虚しさに近い。 「おにいちゃん、お嫁さん、もらわないの?」  泣き出した二歳の甥っ子を抱き上げあやしている早苗に訊かれて、敬一は思わず苦笑して言い訳した。 「今、メチャ忙しいんだ。この業界は変化が速いし、これでも会社の存亡に関わる責任ある仕事をしているんだぜ。当面は仕事一筋、ってことだ」 「お義兄さんは、まだ独り身で自由に思う存分仕事ができて、いいなあ。羨ましい限りだ。僕はうちではゆっくり本も読めないですよ」  吉雄が脚にまとわりついている姪の相手をしながらフォローしてくれたが、そのせりふとは裏腹に、彼の顔には家族を持つ男の幸せが貼り付いていた。   
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