第2話 結婚のご提案

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 昨今は、いじめ問題だ何だと教師もラクな職業ではないらしく、吉雄も時おり愚痴をこぼしたりしている。  しかし、熱血教師になろうということでなくとも、家族を養うためにこそ、と頑張り、いろいろ不満をも抑えて勤務に励んでいるらしい。 「おにいちゃん、仕事が忙しいなんて、理由にならないよ。おにいちゃんを支えてくれる、仕事の励みになるお嫁さんをもらえばいいじゃない」  たかい、たかい、をしてもらって甥っ子が手を叩いて嬉しそうに笑っている。  早苗が続けた。 「やっぱ、家族っていいよ。仕事だけなんて、淋しいじゃない」  早苗の一言に、思わず胸が呼応した。  さようなら、と賑やかに手を振りながら小型のバンに乗り込んだ早苗家族を見送ってから、敬一の胸に苦くて甘酸っぱい想いが一挙に広がった。  ずばり言い当てられた気がする。  仕事だけの人生は淋しい、と。  人を愛したい、と真面目に思った。  結婚がしたい!  こいつのために頑張ろう、と思える嫁が欲しい。共に寄り添い支え合う伴侶が、温かい家庭が欲しくなったのだ。  エイプリルフールに「嫁募集中」の告知記事をネットで公開したのは、ウケを狙ってアクセスを稼ぎたい、との表向きの思惑があった。  しかしそれ以上に、誰にも応募してもらえなかった時に、笑って誤魔化せられるように、と防衛線を張りたかったからでもある。    仕事で顔を合わせる女性達にも記事を見られる可能性は大いにあった。  やっぱり、とか後で同情されたり軽蔑された時に、あれは単なるジョークです、と一笑に付すことができるように、ということだ。  サイトを再度チェックしてみると、早くも予想外のページビュー数を稼ぎ出していた。  フェイスブックの「いいね!」を押してくれたりツイートしてくれた人も多く、どうやら自分の「嫁募集」記事がすごい勢いでネットユーザーの間に広まっているようだ。  しかし、肝心の募集は、まだない。  同僚で友人でもある明夫が、スクリーンを一緒に覗き込みながら軽口を叩いた。 「織田、これって、表彰モノの数字だよ。 いやあ、この告知記事のお陰でうちのサイトも知れ渡り、有名になるかも知れない。婚活事業部、とか立ち上げる際には部長にしてくれって、今から社長に頼んでおくことにしようかな」
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