第2話 結婚のご提案

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 開けてみると、「嫁募集中」に応募してくれた女性達で、メールにはお見合いの釣書きみたいなものから就職用の履歴書のようなものが添付され、写真も添えられていた。  今までの人生でこれほど女性にモテたことはなく、感激のあまり敬一の胸が文字通り躍った。  しかし、メールを読み写真を見るにつけ、曖昧な懸念が胸に広がりはじめたのだった。  なぜか、ピンと来ないのだ。  どの女性も真面目に、お付き合いしたい、と書いてくれているし、写真で見る限り綺麗な女性さえいる。  それなのに、この中に嫁になる女性がいる、と言い切れない優柔不断さが胸の内でうごめいている。  彼女達の自己紹介のメールを一つ一つ丁寧に何度も読み返し、何か読み落としていないだろうかと必死に眼を凝らし、行間に隠されているかもしれない意図を読もうと腐心しながら、敬一は思わず不安になった。  いったい、自分は本気だったのだろうか。  嫁を娶る覚悟が、できているのだろうか。  誠実に応答してくれた、こんなにも多くの女性の気持ちを考えて、自分を叱咤する。  よし、今夜は真夜中までこの企画の成果を見届けてやる。  決意も新たに画面を睨んだところ、次なるメールの着信を知らせる音が、深夜のオフィスに響いた。  期待に駆られて敬一がメールを開くと、奇妙なことに、パワーポイントのファイルが添付されているではないか。  メールのタイトルには確かに「嫁募集中への応募」と記されており、仕事の件では有り得ない。  いったい何だろう、といぶかりながらパワポを開くと、驚きのタイトルが敬一の眼に飛び込んできた。 「結婚のご提案」  敬一の胸が高鳴った。  これはまさしく応募者からのメールなのだ。  パワーポイントの提案書を送ってくれたところからして、どうやらこの女性はプレゼンの経験がある人らしい。  先ずは敬一のどこが好きかが列挙され、ハイライトまでされている。  有名人でもないこちらのことを、過去にネットで発表した記事や、今回の「嫁募集中」に載せた自己紹介をもとに克明に検討し、自分なりに分析してくれたらしい。  そして、好きなタイプだと断定してくれた。  これまで女性に褒められたことなど記憶になく、その宣言だけでも十二分にありがたく思えるのだった。  
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