十一

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 目を覚ました辰星(しんせい)は、ぼんやりと天井を見上げていた。  ここは……この天井は、ああ、天祐(てんゆう)さまの……そう、思い出して顔を動かしたとたん、辰星はぎょっと目を見張った。  目の前に、天祐の顔があった。天祐は辰星の横でまだすやすやと眠っている。  おかげですっかり目が覚めた辰星は、そろりと身体を起こした。無意識に単衣(ひとえ)の襟元を合わせ直し、室内を見回す。従僕たちが雨戸を開けてくれたのだろう、部屋はすっかり明るくなっていた。視線を動かすと、隣の布団では有得(ゆうとく)が、これまたぐっすりと眠っている。その枕元の時計に目を遣り、辰星は自分が昼まで眠っていたことを知った。  確か明け方近くまでは、まだ寝返りの打てない有得さまの姿勢を変えたりしてたんだけど……辰星は頭を掻く。いつの間に天祐さまの布団に転がり込んだのか……いや、もしかしたら天祐さまが僕を引っ張り込んだのかもしれない。  枕元に置かれていた自分の眼鏡に辰星が手を伸ばすと、天祐の身体がもそりと動き、ぼんやりと目を開けた。 「……辰星?」  横になったまま、天祐はまだ寝ぼけているような目で辰星を見上げる。 「おはようございます。起こしてしまいましたか?」 「おはよ……いま、何時だ?」  首をぽりぽりと掻きながら、天祐は大あくびをして起き上がった。 「もう昼です」  辰星が苦笑しながら応えると、天祐はまた大あくびをし、それから自分の腹をさすった。 「腹、減ったな」  辰星の口元が思わずほころんだとき、有得の声が聞こえた。 「……すっかり、寝坊してしまったようですね」  言いながら、有得が身体を起こそうと動いたので、辰星は慌てて手を伸ばした。 「まだ無理ですよ」  顔をしかめた有得が、忌々しげに呟く。 「ああもう、こればっかりは不便なことこの上ない」  辰星が有得の身体を支えて起こしてやると、すぐに天祐も手を伸ばしてきた。 「辰星、糸把屋(しはや)でやってたみたいに、有得の後ろに布団積んでやれば?」 「あ、ああ、はい。じゃあ、少しの間、お願いします」
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