十一

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 しかし天祐は、自分で絞った手拭いを持って戻ってきた。 「有得、顔拭くか?」 「ええ、いただきます」  使える右手で有得はごく当たり前に受け取る。 「辰星も顔洗えよ」  天祐に言われ、辰星も手拭いを受け取って縁側に出た。なんだか本当に驚くことばかりだ。  それに……辰星は、縁側から部屋へ戻った伽絽にちらりと視線を送る。伽絽は何もなかったかのようにまた広げた星図に視線を落としている。本当に、何もなかったかのように……伽絽は、僕がどんな目に遭ってきたのか、本当に知ってるんだろうか? それとも……昨夜のことは、やはり夢だったんだろうか……。 「辰星」  天祐に呼ばれ、辰星は手拭いを使いながら顔を上げた。 「食いもん調達しに行こうぜ。手伝ってくれ」 「は、い?」  わけがわからないまま、辰星は天祐に袖を引かれて廊下を歩いた。連れて行かれたところは、厨房だった。 「なんか食いもんあるかー?」  広い厨房に入ったとたん天祐が声を上げると、中に居た下働きの者二名が、跳び上がるようにして隅に下がり、平伏した。  天祐はお構いなしに周囲を見回し、鍋や釜を覗き込む。 「飯、もらっていいか? それとこっちの汁も」  下働きの者たちは可哀想なほど畏(かしこ)まり、平伏したまま頭を摺りつけるようにしてうなずく。天祐はやはり全く構わず、辰星を手招きした。 「辰星、椀と皿を出してくれ。そこの戸棚に入ってる。皿はでかいの一枚でいいや」  呆気にとられたまま、それでも辰星は天祐の言う通り、戸棚から必要な数だけ椀と皿を取り出し、盆に載せた。後は箸と、茶の準備もした方がいいだろうか……辰星が適当に食器を揃えている間、天祐は自分で釜から飯を櫃(ひつ)に移し、大鍋から汁を小鍋に移した。 「漬物もあった。もらっていこーぜ」  全く屈託なく天祐は言い、辰星が手にした盆に漬物の皿も載せる。そして飯櫃を小脇に抱え、もう一方の手で鍋を下げてニッと笑った。 「んじゃ、部屋に戻ろうぜ」
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