三十九

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 「辰星……っと、邪魔だったか?」  ひょこっと天祐が顔を出した。 「邪魔だ」 「いえ」  伽絽と辰星が同時に声を上げ、辰星は苦笑してしまった。 「伽絽、天祐さまも今日はずいぶん頑張ってくださったんだから」  辰星の言葉に、伽絽はむっつりと顔を上げる。そして天祐に視線を送り、呟くように言った。 「わかっておる。天祐、すまなんだな」  明るく振る舞う天祐の姿に、伽絽もやはり励まされていたのだ。  天祐の顔がくしゃりと歪む。泣き笑いのような表情を浮かべ、天祐はうなずいた。 「うん、俺、頑張っただろ」  館が再建されても……恐らく、その完成を伽絽が見ることはない。それを承知の上で、それを隠し通した上で、館の再建について話し合うのは天祐にとって拷問以外のなにものでもなかったはずだ。 「天祐さま」  思わず辰星は手を伸ばし、天祐の肩を抱き寄せた。その肩が震えている。  唇を噛みしめた天祐が無理に笑い、その顔を辰星に向けた。 「辰星、申し訳ないんだけど、またそろそろ行ってもらわねえと」 「はい」  うなずいた辰星は、そっと伽絽を自分の膝から降ろした。 「ごめんな、姫」  申し訳なさそうに天祐は言い、そしてなんとか泣き出さずに堪えた。目を赤くしてしまえば、周りの者たちが訝しむ。  辰星はもう一度伽絽の髪を撫でた。  これから代表者たちをもてなす賭場を仕切るのは重要な務めなのだ。それによって各地の代表と親交を深め、個人的な信頼関係を築く。また填功の思惑としては、辰星の優秀さを彼らにさらに印象付けたいらしい。そうすることで、より円滑に館の再建を進めることができるだろう。  そしてその賭場には、天祐と有得も同席することになっている。 「行ってきます」 辰星はささやくように言う。「多分今日は明け方まで帰れないと思うから、先に休んでて」  見上げる伽絽が、小さくうなずく。  伽絽はすでに館の焼け跡に戻っている。奥の院で焼け残っていた建物を応急処置で手直しし、すでにそこに暮らしているのだ。そこには、辰星も一緒に住み込んでいる。 「海嘯さん、伽絽を頼みます」  辰星が頭を下げると、海嘯も頭を下げた。 「承りました」
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