三十九

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 海嘯も、卓峰たち館の星読み師たちも、さらには翠山も、すでにそれぞれ焼け跡に残った建物に移り住んでいる。翠山は約束通り、姫さまへの最期のご奉公とばかりに全ての星読み師をまとめ、海嘯を支えてくれている。  辰星は、天祐と一緒にまた大会堂へと戻っていった。  年が明けて十六歳になった天祐の身体もまた、成長している。少し背が伸び、骨格自体もしっかりしてきた。この半年ほどの間、天祐はほとんど〈跳躍〉を行っていない。天祐の身体への負担を考え、太苑が緊急時以外の跳躍を禁じたのだ。その結果、天祐の身体も目に見えて成長を始めていた。  時は、確実に流れている。  それから四年、伽絽は生きた。  最後の冥利の姫が身罷(みまか)られたという知らせは、国中を哀しみに包んだ。  それまでにゆっくりと少しずつ……人々には知らされてきていた。伽絽が、〈最後〉の冥利の姫であるということ……つまり、冥利の姫の長命を支えてきた〈秘薬〉が最早残っていないのだ、という事実をだ。そして、新しい冥利の館の主には、男性である海嘯がすでに姫によって指名されているのだ、ということも。  そのため、その訃報にも大きな混乱は生じずに済んだ。  ただ深い哀しみだけが、人々の心に広がっていた。  しかしやはり、辰星だけは別だった。  最初から覚悟していたことだとは言え……辰星を襲った激しい喪失感は止めようもなかった。  本当に抜け殻のようになってしまった辰星が伽絽の後を追ってしまわないよう、有得が威征を遣わして四六時中見張らせたほどだった。  伽絽が死んだら僕も死ぬ……そう明言していた辰星を踏みとどまらせたのは、我が子だった。  そう、伽絽は自分の最後の、たったひとつの〈望み〉を叶えたのだ。  伽絽は辰星の子を産んだ。辰星と同じ黒い巻き毛に黒い瞳の、女の子だった。伽絽はその我が子に恵利(えり)という名を与えた。恵利が、まさに辰星を地上にとどめてくれたのだ。恵利を出産して伽絽が身罷るまで半年余り……その幸せな時間がなければ、辰星は恐らく持ちこたえられなかっただろう。
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