三十九

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 新しい冥利の館が落成を迎えたのは、伽絽が身罷ってからさらに四年後だった。  落成前からすでに新たな主として忙しく働いていた海嘯は、そのまま他の星読み師たちと協力し日々星を読み人々に尽くしている。その目は、完全な失明は免れたものの、わずかに光を感じられる程度になってしまっているのだが。  その海嘯を時折、冬雷(とうらい)が酒の入った柄樽を下げて訪(おとな)うようになったのには、周囲はいささか驚きを感じたものだが……それでも、皆そのことを喜んだ。どういうわけかこの二人は、互いになくてはならない友人同士になってしまったらしい。時折、何を話すでもなく、差し向かいで酒を呑むことが、海嘯にとっても冬雷にとってもかけがえのない時間になったのだ。  そのことを……海嘯が生涯の友を得られたことを誰よりも喜んでいた翠山は、伽絽の最期を看取った後、静かに世を去った。  海嘯は己のことを琥珀に打ち明けてはいない。  けれど、琥珀は有得があのとき約束した通り、正式に有得の正室として迎えられた。有得は王宮内に自分の屋敷を構え、琥珀はそこへ輿入れした。王宮内でも琥珀はすぐさま太苑の正室朋頌(ほうしょう)と昵懇(じっこん)になり、二人して王宮配下の下級役人や軍属たちの待遇改善に乗り出したほどだ。  勿論、有得と琥珀も子を成した。子は二人、いずれも男子でそろって金色の瞳をしており、その腕白ぶりに有得も少々手を焼いている。  宇玄はその孫たちを文字通り目に入れても痛くないとばかりに可愛がっている。そして、何をどう刺激されたのか、俺もまた妻を迎えるかなどと言い出し、有得に頭を抱えさせている。  華淑(かしゅく)は己の出自を知らぬまま、望み通り興千(こうせん)に嫁いだ。こちらもすでに子を成し、落ち着いた暮らしをしている。興千は教導師の地位を辞し、あのとき伽絽が言った通り、王宮から館へ出向してさまざまな雑務を行う職に就いている。瑛寧(えいねい)はとうとう正気を取り戻さぬまま、世を去った。宇玄にとってはそのことだけがいまも悔やまれているだろう。
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