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太苑は玉座に座り続けている。過酷な政務に相変わらず体調はすぐれぬままではあったが、それでも周囲に少しずつ信頼のおける者たちを集め、己の遣り方での統治を進めている。隣国トゥバンとの関係……いや、戴冠して君主となったルスード陛下との関係はすこぶる良く、またハマルのナ族の双子の族長、ゼトとゼスとの関係も悪くない。
さらに、太苑と朋頌の間にも子ができた。最初は女子、翌年には男子も生まれた。いずれも金色の瞳を持ってはいなかったが……太苑と朋頌はそれまでのしきたりを破棄し、乳母を置かず朋頌自身が子育てをし、当たり前の家族として親子仲良く暮らしている。
辰星は、いまも古街で暮らしている。
糸把屋の裏手に家を借り、一人娘の恵利と、そして糸把屋のおかみを引退した歳笙(さいしょう)と三人で暮らしているのだ。すぐ近くに威征(かいせい)が通う蝶夏(ちょうか)との家があり、伽絽亡き後も蝶夏が恵利に乳をやって育ててくれた。丁度、威征と蝶夏の間にも男子が生まれたばかりだったのだ。
威征と蝶夏の息子は、蝶夏が〈ちび威征〉と呼んで溺愛しているほど、本当に威征にそっくりだ。髪の色こそあの燃えるような赤毛ではなかったが、小柄で澄んだ水色の瞳をしており、赤子の頃から滅多に泣きもしなければ笑いもせず本当に無表情で……それでいて、乳兄妹である恵利が他の子どもにいじめられていたりすると、無言で相手に突進して行ってなぎ倒してしまうほどの激しさを持っている。
辰星は、そうやって自分だけではなく我が子も周囲に支えてもらえていることを、本当に心から有り難く感じていた。
中洲島の円代だった嘉陽は、新しい冥利の館の落成を待たずに世を去った。そしてその跡目は嘉陽だけでなく皆が望んだ通り、填功が継いだ。填功が抜けた後の役務組の組頭は、伯紳(はくしん)が務めている。周囲は辰星が継ぐものと考えていたようだが……辰星がそれを固辞したのだ。
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