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「君が居てくれてよかった。」
彼女は安心したように僕に言った。
僕にはわからないが彼女は寂しかったという、きっと誰もいなくなってしまったこの世界で1人でいるのが辛かったんだと思う。
確かに考えてみればそうかもしれない、寂しくてたまらなくて、じんじんと胸の奥が痛んで、いてもたってもいられなくなる…確かにそう思うかもしれない。
でも不思議と僕にはそんな感情は無かった。
どうしてだろうか?確かに胸の奥が締め付けられる感覚があるけれど、この感覚は彼女とは別のものだ。
どちらかというとはやくこの世界と一緒に僕も終わってしまいたい、きっと焦っているのだと思う。
だって、僕以外のみんなはもう次の始まりに向けての 準備が終わっているのだから。
「世界が終わるまで、一緒にいてもいいかな?」
彼女が不安そうに聞いてきた。
もし僕が断ったら彼女はどうなっちゃうんだろうか?きっと怖くて怖くてたまらなくなるだろう。それは僕も嫌だ。
「いいよ。」
「本当に?」
「うん。」
短い言葉のやり取り、なのに今の間に彼女の表情はコロコロと変わった。
「じゃあ自己紹介するね、私の名前は、名前は…あれ?」
「どうかしたの?」
「名前…思い出せない。」
冗談かとも思ったけれどポカンと口を開けたまま不思議そうに固まったまま動かない彼女を見ると、多分本当に名前が思い出せないんだと思う。
「さ、先に君の名前を教えてよ。」
少し混乱気味に彼女が提案する。でもどうせ僕と彼女しかいないんだ、名前なんて意味がない気がするなあ。
「じゃあ僕の名前は…。」
僕の名前、大事な母さんと父さんに考えてもらった名前。
とても大切な名前、なのに、僕の名前が思い付かなかった。
それどころか母さんと父さんの顔も思い出せない。
僕はどこにすんでいる誰なのかもわからない。思い出せない。
「僕も…なにも思い出せない。」
「どう言うこと?」
「母さんと父さんのことも、自分の名前もなにも…思い出せない。」
「本当に?」
きっととても大切な事なのに、大事な事のハズなのに…何もかも忘れてしまっていた。
「じゃあ、一緒だね。」
「え?」
「私もなにも思い出せないもん、一緒だよ。」
「…そっか、そうかもね。」
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