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そうだ、もう記憶なんて必要ないのかもしれない。
きっと僕の中のなにかも徐々に消えていっているのだろう。
彼女の中のなにかと一緒に、消えているんだろう。
「見て、月が見えるよ。」
「そうだね。」
今までとは違って幻想的な夜。
キラキラの粒々が空一杯に、輝いている。
そして、ほとんど点々の光の中に、ちらほらと周りより大きな光が、石ころくらいの大きさになった光が見える。
遥か遠くに見える山はほんのりと光っている。
人が何かを光らせているのではなかった。見てはいないけど、きっと違う。
地面に落ちている石もぼんやりと輝いていて、大地が光を灯していた。
「なんだか不思議だね。」
「うん」
「でも躓いて転ぶことがなくなるかもしれないね」
彼女が光る石を拾って僕に渡した。
そしてもうひとつ、次は光ってはいない石を拾った。
「どっちも一緒だね。」
「うん、どうしてこっちは光らないんだろう。」
「どうしてだろうね」
何気ない疑問、もしかしたら何か理由があるのかもしれない。
だけれど彼女は深く物事を考えるのが苦手なのかポイと石を投げ、僕に振り向いた。
「あっち、あっちに行こう。」
「あっち?」
「そう、あそこの山の上。」
彼女が指差したのは今でもほんのりと光っている山だった。
「とっても遠いよ?」
「でも行きたい。」
「じゃあ行こう。」
いつからだろう?いつの間にか眠気は、消えていた。
気がついたら僕は終わりを待つのではなく、終わりまで過ごすことが目的に変わっていた。
きっと彼女は最初からそうだったんだと思う。
ただぼんやりと待つより、終わるその瞬間までこの世界を楽しみたいんだろう。
うん、そっちの方が良いかもしれない。
意味があるわけではないけれど、どうせ終わるなら、最後まで起きているのも良いかもしれない。
「いこっ」
彼女は僕の手を取り歩き出した。
僕もそれについていく。
星がギラギラと強く輝く夜空の下で、僕たちの少しだけの冒険が始まった。
「明日には付くかなあ?」
「疲れて倒れちゃうかもね。」
「ふふ、そうなったときは二人で終わりを待てばいいよ。」
「うーん、やっぱり名前あった方がいいかも。」
「そう?」
「うん、じゃあ私の名前はマイでいいや」
「じゃあ僕はユウ」
多分二人とも今思い付いた名前を口にしただけだろうけれど、まあいいや。
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