続・ジュリエットの憂鬱

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<凪目線> 7月になると急に片岡さんがヴェネチアに行こうと言い出して、週末を利用して帰省するマリア先生の旦那さま・ダニエルと一緒に行くことになった。 ダニエルはヴェネチアのムラーノ島の出身で実家はヴェネチアングラスの工房なんだよと言われて、やっぱり片岡さんは不思議なひとだなあ、と思う。 なんで、そんなこと、いつの間に知ってるの? そしてダニエルともいつの間に、そんなに仲良しになってるの? 着いてすぐにムラーノ島に渡って、工房を見に行った。 片岡さんはダニエルとそのお兄さんたちと何か難しい話を始めたので、私はひとりで工房を見学させてもらった。 ヴェネチアングラスは、こちらではムラーノグラスとも呼ばれる。 13世紀後半、火災の防止や技術の漏洩を防ぐために、ガラス工房はヴェネチア本島からムラーノ島に移された・・・・というのは片岡さんの受け売りだけど。 複雑な模様と鮮やかな色合いはとても綺麗で、見ていると時間を忘れるほどだった。 ガラスって、冷たい感じがすごく素敵だと思う。あんなに熱く熱く出来上がって行くのに。 午後になって本島に戻り、サン・マルコ広場やドゥカーレ宮殿をゆっくり見ていたら、あっという間に時間は経ってしまった。 片岡さんの説明付きだと観光のガイドはいらない。 ヴェネチアはレースや紙細工も有名で、途中そんなお店を覗くのも楽しかった。 夕方、大運河にかかるリアルト橋を見に行った。 大理石の重厚な橋は思っていたよりもずっと大きかった。 橋の上にはアーケードがあって、ずらりとお店が並んでいる。 橋の上から運河の風景を見下ろしながら、私はふと思い出して言った。 「なんか、古い映画でありましたよね。男の子と女の子がゴンドラに乗って、夕暮れに橋の下でキスをするって・・・いう」 「ああ・・・・たしかリトル・ロマンスだったかな?あれはもっと向こうの・・・・ため息橋だね」 「片岡さん・・・ホントに何でも知ってるんですね」 「いや、好きな監督の作品だったから、見ただけだよ」 さらりと言う横顔には、何故かいつもつっかかりたくなる、何かがある。
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