第十一夜 ギルバードの過去

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 現れる足音はギルバードとアザゼルのもの。  牢の前に立つ兵はギルバードとアザゼルに向けて恭しく頭を垂れた。 「練兵場にいた者です。  自分にはレン副長がそのようなことをするとは思えません!  レン副長を……どうかお助けください、お願いします」  看守自らが進んで扉を開けることなど未聞のこと。  それは一重にレンやティルアが行ってきたことの積み重ねによるものだろう。  重厚な扉の蝶番が錆びた悲鳴を立てて開かれた。  灯火一つない地下牢の独房に光が差し込んだ。  真正面の壁付けに用意されている埃被った寝台の上に、頭を抱えてうなだれるレンの姿があった。  ギルバードとアザゼルが足音を立てて近付くと、彼の肩はびくっと縦に震えた。 「ギルバード、俺を殺してくれ、今すぐ殺してくれ……!  俺はもう生きている価値などない、ティルアに、ティルアに、ああっ……!」  レンはギルバードのスーツパンツの裾にすがり付くようにして崩れ落ち、哀願した。  アザゼルはあまりのレンの変貌ぶりに思わず眼を伏せた。  乱れた赤の髪はぼさぼさに下ろされ、緑がかった青のエメラルドは色褪せ、くすんでいる。  黒と白の囚人服を身にしながら、レンは死を望み、ギルバードの足にすがる。  ギルバードは眉一つ動かさない。  底のない深い闇色の瞳で軽蔑するような含みを持ってレンを見下ろした。 「レン……君がナフアに盾に取られたものは孤児院か?」 「!! ギル――」 「…………なるほど、分かった。  おれが聞きたかった情報はそれだけだ」  ギルバードは踵を返した。 「え、ギルバード様、もう宜しいのですか?  まだ詳細は何も」 「ギルバード……、俺は結局、どちらも守れなかったんだ。  孤児院も、ティルアも、そのどちらも……!」  出ていこうとするギルバードの背にレンが心境を吐露した。 「……まだだ、レン。  まだ終わっていない。  おれは何一つ泣き寝入りするつもりはない。  何一つ諦めるつもりもない。  君はやけを起こさずイアン王の前で真実を語ってくれればそれでいい。  後はおれが何とかしてやる。  ようやく……ようやくおれは、おれのやるべき道が見つかった。  孤児院はセルエリアに移してでもおれが助けてやる」  背を向けたまま発したギルバードの言葉に、アザゼルは王の器を感じた。
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